高校1年生のとき私のいた教室は、売店に一番近いところにありました。行きたかった高校に入学し、新しい友達もできて楽しい生活が始まった一方で、まだ慣れない環境に落ち着かず、手持ち無沙汰な休み時間には用事もないのによく売店に行っていました。古くて小さな売店でしたが、なんとなくホッとする場所だったのです。そこにたくさん並ぶパンの中で、「棒ドーナツ」は私のお気に入りになったのですが、人気がある割に数が少なく、買いにいくのが少し遅くなった日には、売り切れていることもたびたびでした。私と売店のおばちゃんの間で、
「棒ドーナツありますかー?」
「あらー、さっき売り切れたんよ。もう少し早く来てくれればよかったのに。」
という会話が何日か続いたこともありました。そんなある日、売店に行くと、
「あー、来た来た。ドーナツとっといたけんね。」
と、おばちゃんがこっそり取っておいた私の分のドーナツを出してくれたのです。
うれしい反面、ちょっぴり恥ずかしくもあり、でもおいしくいただきました。
気がつけば、休み時間はクラスの教室で友達とおしゃべりしている時間が居心地よくなり、さらに学年が上がると売店から遠い教室になったこともあって、棒ドーナツを買い求めに行くこともほとんど無くなっていました。でも、あのドーナツの味は今でもたまに恋しくなります。