子ども達の集まる、”ミューラ”という文房具屋が近所にあった。色とりどりのペンや美味しそうな駄菓子、かっこいいプラモデルまで、子供心をくすぐるものがなんでも揃っていたように思う。僕らはよく、そこで遊びの待ち合わせをしたし、そこは町内の子ども達のオアシスのようだった。
「はい、100万円ね。」100円のお菓子を買うと、お店のおじちゃんは決まってそう冗談を言った。100万円のおじちゃんは笑顔が優しくて、緑のセーターのよく似合う人だった。
お店はなくなってしまったが、店内の埃っぽい空気や100万円のおじちゃんの優しい声、甘ったるいガムと練り消しの匂い、扉の軋み具合まで今でも覚えている。
中学生になって初めてそこが”ミューラ”ではなく”三浦商店”だったことを知ったが(”ミューラ”ではなく、”ミウラ”だったのだ!)、僕にとって今でもそこは”ミューラ”のままである。