僕の実家の周りは森林と畑しかなかった。民家の集団から孤立した立地だったこともあり、森の中の隠れ家などと言われたぐらいだ。そんな環境で青春を過ごしてきたため、森が一番の友達になることはある意味必然だったかもしれない。
小学生の頃、学校から帰れば森の中に探検に向かうのが日課だった。野良犬や野良猫を追いかけ、見たことのない木や虫に興奮する日々。成長してからも、悲しいことがあればまずは森に入っていった。悩みもつらさも共有し、森のすべてが僕を励ましてくれるようにすら感じられたのだ。
そして、10数年間毎晩変わらず流れる森の虫やカエルによる大合唱は最高の子守歌。これがないと落ち着かないくらいだ。
大学生となり実家から離れることになった。目に映る色とりどりの建物、夜でも明るい街。世間の技術の進歩に感心させられる日々。でもやっぱり落ち着かない。僕にはあのシンプルな緑があっているようだ。毎晩そんなことを考えながら布団に倒れこむ。森の子守歌はここじゃ聞こえないようだ。