母が生きていた頃、母に誘われて、よく美術館に行った。何もしゃべらず、二人でゆっくり館内を回った。無言だけど、その空気感がとても居心地がよかった。
母が入院してから、学校が終わるとまっすぐ病院に行く生活だった。二人きりの病室でも、僕は何か話すわけでもないし、母も特に何かを話そうとしなかった。僕は病室で黙々と宿題をしていた。
美術館と同じく、病室でも二人は無言だった。
母が亡くなってから、姉に教えてもらったことがある。
母は、あの無言の時間が好きだったと。あの二人だけの特別な時間が、とても居心地がよかったと。
母は、父や姉とは美術館に行くことはなかった。
母は美術館だけでなく、僕と過ごす時間も楽しみにしていたのかもしれない。
母がいなくなった今、母を思い出すときはいつも、あの美術館と病室を思い出す。二人だけの、あの静かな時間は大切な宝物。